県大の研究人!<キワメビト>~イマとコレマデとコレカラと~Vol.2

キワメビト第2号 池田 塑良 さん(人間文化学部 地域文化学科 4年生)

池田塑良さん歴史的景観を守るまちの仕組みに迫る

文化や歴史が生み出す美しい景観には、市民の思いや自治体の活動が大きく関わっています。旅行で全国制覇を目指すほど地域の景観や文化に強い関心を持つ地域文化学科の池田さんは、それらを守る制度や条例に注目。自身の地元にある「お城」をテーマに、研究しています。

Q. 取り組んでいる研究について教えてください。

研究テーマを考え始めたのは2年生から3年生に上がる去年の3月からでした。色々調べていると、私の地元、愛知県にある岡崎城は、岡崎市にある大樹寺(だいじゅうじ)の総門から3km伸びる一直線上にあり、門扉の間から望むことが出来ることを知りました。300年以上前から愛されるこの景観を守るため、岡崎市は大樹寺の総門から岡崎城の間の線「ビスタライン」上に遮るものがないように、条例を策定しています。岡崎城は明治の廃城令で一度撤去されたこともあります。それにも関わらず、市民の思いと制度によって街全体が歴史的景観を守っていることはとても興味深く、制度ができるまでの経緯や市民の意識について調査を進めたいと思いました。地域と歴史と景観、自分の興味が重なった、面白いテーマを見つけられたと思っています。

大樹寺の三門、総門からみえる岡崎城
▲大樹寺の三門、総門からみえる岡崎城

Q. 今後やってみたいことや目標は?

今は資料での情報収集を中心に研究を進めていますが、岡崎市役所の人にヒアリングをしにいきたいと考えています。岡崎城再建後にビスタラインを守る動きが生まれたきっかけや、景観計画や条例を考案?制定した時のことについて詳しく聞いてみたいです。この研究を通して観光の活性化や地域の景観保全に活かせる制度や仕組みについて考察を深め、あらゆる自治体で役立てられる知見を得たいと思います。

Q. 研究室を選んだ理由は?

元々歴史が好きで、地域の歴史に基づく文化や景観を守っていきたいという思いがありました。萩原先生の研究はまさに、地域文化と景観の繋がりを可視化する内容で、自分のやりたいことと合っていました。地域文化学科では、3年生の途中からゼミに配属されます。希望者が定員以上のゼミは、配属までに担当教員の授業をとっているかどうかが加味されて配属先が決まるので、僕は萩原先生の授業を全て履修して、本配属前のプレゼミも萩原先生のところに参加していました。

Q. 先生はどんなお人柄?

とにかく学生に寄り添ってくださいます。僕は文化や景観を守るための制度づくりに興味があるので、地元の公務員を志望しているのですが、今の時期は公務員試験の準備で忙しく、なかなか研究が進められません。そういった一人一人の事情を汲んでゼミを進行してくださるので、本当にありがたいです。

Q. 先生にヒトコト!

いつも研究を丁寧に見てくださってありがとうございます。萩原先生は、研究の方向性も、進め方も、学生に自由度を持たせてくださいます。一方で、どうしたらいいのかわからなくなった時はたくさんアドバイスをいただいて、前に進めることができました。これまでの研究活動でも、一人ではとても進められなかったとひしひしと感じています。引き続き、よろしくお願いします。

担当の先生に研究インタビュー!人間文化学部 地域文化学科 萩原 和 准教授

まちの「見た目」から、人々の暮らしと未来を考える

萩原和先生地域から学び、地域を研究する場を提供する

2014年1月に本学地域共生センターに特任教員として着任し、その後、所属先が変わり現在の人間文化学部地域文化学科の教員となりました。特任教員の頃は、大学が地域連携や地域に関する教育プログラムを用意し学生の学びや地域活性化の中核になるための事業に関わりました。この成果の一つが、全学部が履修する「地域共生論」です。カリキュラムを整理しながら授業を企画運営するのは大変でしたが、今は、その時に生まれた滋賀県内でのつながりを自身の研究に活かすことが出来ています。

研究では、景観を通してまちや都市に息づく人々の生活を「見える化」し、それをまちづくりに活かす「景観まちづくり」をテーマとしています。景観というキーワードを研究テーマとしたのは、元々近代建築など古い建物を見るのが好きで、よく街歩きをしていたことがキッカケです。学生の時からお世話になっていたデザイン事務所の紹介で、市民農園の運営管理の仕事をした時に、施設の充実度ではなくそれを利用する人々のモチベーションの亚洲通_亚洲通官网¥娱乐网址性に気付かされました。今では、大学院の頃に学んだ「パブリックスペースの景観分析」、さらには「農村計画学をベースとした人や組織のマネジメント分析」を駆使して、おもに都市近郊農村をフィールドとして研究しています。

亚洲通_亚洲通官网¥娱乐网址にきて5年目の年(2018年4月から)、地域文化学科の教員として研究室を持つこととなりました。地域文化学科は、歴史系、地域遺産系、交流系、現代社会系の大きく4つで構成されており、さまざまな人文社会科学の領域をカバーしています。現役で活躍されている先生方はじめ、退官された先生方、そして歴代の卒業生の皆さんが日々培ってきた人文社会科学の豊かな土壌があり、この文脈のもとで「景観まちづくり」の研究室を立ち上げることが出来たのです。ゼミでは、景観を絡めながら、学生さんの中で地域や歴史への興味関心が育っていけるように、一緒に研究しています。池田さんのように、私が知らない情報を自分で見つけてテーマを立てられる学生さんもいて、日々彼らから良い刺激をもらっています。

まちの姿を捉え、まちづくりのヒントを得る

まちの見た目、景観の良し悪しは人の主観的な評価に委ねられます。絶対的な答えはありません。しかし、地域の歴史や機能など、これまでの人々の暮らしを表したものです。
例えば、米原の入江という地区は、かつて内湖でした。戦時中の食糧難で干拓され、そのまま広大な農地になっています。その後、長浜方面へ続く国道8号バイパスが通り、それに伴う土地開発によって入江地区の景観の変化は目まぐるしいものとなっています。こうして変わりゆく景観に、今後のまちづくりの方向性を見出すため、国道8号バイパスを走りながら伊吹山を望む景観を、農地や市街地などの景観要素に分けて評価したりしています。このように、景観要素から評価しうる部分を見出し、市民相互に情報共有できるツールを考案することができれば、その地域の人々の暮らしを、まちの「見た目」を切り口として客観的に表すことができるかもしれません。こうした取り組みが、今後のまちづくりを議論するためのヒントになると考えています。

米原の景観
▲国道8号バイパスの景観要素(助手席の撮影者から撮影したものを加工)

最近では、画像解析技術を勉強しながら、建物などの景観要素を自動で識別し、景観を分析するツールの開発なども行なっています。スマホが普及しているので、デジタルツールが活用できると、景観評価に地域住民が参加できるようになるかもしれません。今は、景観の評価方法を提案する研究に主に取り組んでいますが、いつか提案した方法をワークショップなどで実際に使ってもらえたら、と考えています。これからも、新しいことに挑戦しながら、研究者として、人として、創造力を高めていきたいです。

学生さんに一言!

「景観まちづくり」は、一枚の風景写真をキッカケにさまざまなストーリーを語り合う機会を豊富に提供してくれます。私が特にすばらしいと思うのが、異なる時代を歩んできた老若男女が同じ景観を共有することで、それぞれの世代を追体験できる点です。萩原ゼミでは、人文社会科学の立場から景観を議論していきます。ぜひ学生のみなさん、普段の何気ない風景を出発点として、その奥深いストーリーを深堀してみませんか?ゼミ生達とともに、ご一緒できる日を楽しみにしています。